奇跡のりんご
奇跡のりんご
「絶対不可能を覆した農家 木村秋則の記録」
石川拓冶著 幻冬舎
無農薬、有機栽培、こういった言葉を良くききますね。
農薬なしで、体にも地球にもやさしい。
とてもいい響きです。
無農薬農業というのは、米や豆など、他のものでは
比較的、簡単に成果をだすそうです。
りんご以外の果物、なし、プラムなども大丈夫だと。
しかし一年に10回以上の農薬散布が行われるりんごでは
到底不可能だというのが常識だったそうです。
この木村秋則さんは、それを可能にしてしまった方です。
また、りんごは、一年に一度しか収穫できません。
一度でも多くの栽培試験をするため、
彼は、持っているすべての畑を
りんごの無農薬栽培の試験場
にしてしまいました。
そのため、何年も無収入の時代がつづいたそうです。
自分では絶対できると思う。
だれかがそういったわけではないけど
自分のなかに、確信がある。
木村さんは自分の家族も、お嫁さんのご両親もすべて巻き込
んで、家族を極貧の境地に立たせて、それでも
りんごの無農薬栽培に没頭してきました。
しかし全く成果のない年が何年もつづきます。
成果がないといっても、何も努力してないのではないのです。
農薬を撒かない分、家族総出で、一日中虫取りです。
そして、酢をはじめとする、刺激性のすくない虫除け、病気
よけの物質を探し続けてきました。
ある時、木村さんはとうとう自殺を決意しました。
無農薬栽培を成功させたいというあせりや、
成功できない自分の惨めさゆえではありません。
自分はこれから成果がでようが、でまいがきっと同じことをつづける。
それでは自分のために、家族は犠牲になってしまう。
自分が死んでしまうのが、最良の選択だと思えたのです。
木村さんは自殺しに、山に入ります。
首をくくろうと思って。
結局自殺は失敗し、しかし木村さんはそこで
りんご無農薬栽培のヒントをつかみます。
その後すぐ、木村さんが立派な実を実らせたわけでは
ありません。しかし同じりんご栽培なのですが、
木村さんの心持ちは、完全にかわってしまいます。
生活を支えるためのアルバイトのようなものは
人目を気にして出来なかったそうですが、
それからはキャバレーの呼び込みをはじめました。
現在の木村さんの口に前歯がないのも
その当時、やくざに殴られたためだそうです。
りんごの栽培に成功してからも
それをどうやって売るかというところで
また一騒動あるのですが、、、
木村さんは、最初、絶対できるという意気込みをもって
あれも、これも、試して行きました。
読める本はすべて読み、情報はすべてあつめ、でも、うまくいかない。
彼はひとつ失敗するたびに、常識をひとつ捨てていきました。
100も200も失敗するたびに、自分が経験も知識も
なんの役にたたない世界に住んでいることを知ったのです。
そうしたとき、初めて無垢な心でりんごに向き合えるように
なったのでしょう。
そして最後には
「おねがいだから、枯れないでくれ。」
一本一本の木に頼んでまわったそうです。
どん底まで追い詰められたのは
おそらく、再び彼が生きるために
たどらなければならなかった必須の道なのでしょう。
木村さんがたどりついた境地がどんなものであったか。
木村さんは信仰者ではないといいます。
特別な神さんはもってないと。
しかし、彼はいつも自分の心に向き合ってきました。
どうしても、自分の心の呼び声を否定できない。
そのために、周りに迷惑もかけました。
しかし、本当に自分を生きるということは
結局自分の心の声を聞くことしか始まらないのだ
ということを、教えてくれる本だと思います。
そして自分が心の声に従って生きることが
結果的には他人をも幸せにするのだということを
彼は人生を掛けて証明してみせたのです。
余談ですが、木村さんのりんご畑で一列全部枯れてしまったラインがあるそうです。
それはお隣の畑との境。
変人と思われていることは分かっていても
やはり人目が木になってその列のりんごにだけは
声をかけることが出来なかったそうです。
関心をもつということが生命力を与えるのだということを確認させられます。