廃校を改築して(2011.5)
私が現在住んでいる地域は人口5万人くらいの郡です。
韓国の地方部は人口現象が著しく、
郡の中心部以外の小学校はすでに軒並み統廃合された状態です。
ということで、この郡には廃校になった小学校がざっと数えて
20校以上あるということです。
その小学校はどれも30年前には1000人規模の小学校だったというのですから
地方の過疎がどれだけ凄いかわかります。
その数多くの廃校は売却され、ほとんどが個人所有となっています。
そのうちの一つを購入し改築し生活しているご家庭を紹介します。
この小学校を買い取った方は まず学校の裏に御自宅を建てました。
それがこれ。
校庭のいたるところには季節の花が咲き乱れ、あらゆる種類のハーブが植えられています。
10種類以上の八重咲きのチューリップが風に揺れていました。
これはお茶の木です。
この写真を撮ったころはまだ新芽が出ていませんね。
どうみても植物に対して人間が足りないので、去年は私と夫が二人で茶摘をしました。
言い遅れましたが、ここのご主人は夫の従兄弟です。
都会で大きな書店を経営していたのですが、
脱都会を目指して10年計画で田舎に生活を移し、
完全移住してから3年になる方です。
田舎生活を始めてしばらくは、特に奥さんはソウルにちょくちょく行っていたそうですが
だんだん田舎に慣れてきて、いまでは特に都会に足が向かないと仰ってます。
ここのご主人は裕福リタイア生活をしたくて
都会からここに移住したのではありません。
この廃校を自分の「大実験場」として思うままに使いまわそうと
意欲的にあれこれやっていらしゃいます。
その最もたるものが このご夫婦の取り組んでいらっしゃる「酒造り」
日本では酒というものに酒税が掛かるので、自家醸造は禁止されているはずですが
韓国の酒造りというのはもともと「自家製」が基本だったそうです。
これは作ったお酒のサンプル
元学校の校舎を利用して、大々的にやっています。
酒造りに関心のある方が学びにも来ています。
これは酒の種をまぜているところ。
すごく体力のいる作業でふーふー言って混ぜてるので奥さんが顔は移すな!と。
「はい。」
酒造りが高じて
ここのご主人は韓国伝統の酒造りに関する資料を集めて研究を始めました。
朝鮮時代までは自分で読み下していらしたのですが
時代が20世紀に入り日帝時代が到来したため
酒関係の文献の記述が日本語になってしまった。
これは一人では読めないので、日本語の家庭教師として来てくれと
私に依頼があり、現在このお宅に通っています。
とても優秀な方なので、「いい生徒さん」なのですが
こんな文献を読み下すためには先生の私が丸腰で出かけることはできなくて
みっちり入念な下調べが必要です。
しても分からないことがたくさんあるんですけどね。
この方の情熱がどれだけ凄いかというと
酒のために、もともとの校舎を大改築しはじめました。
住み始めた時点ですでに校舎のほうにも相当手が入っていて
室内ゴルフを楽しめるようになってたのですが
今回全部取っ払ってしまいました。
校舎の床がはがされています。
将来的にはこの建物を酒資料の博物館にするつもりだそうです。
集めすぎた資料が家に入りきらなくなったのでしょうし、
資料も価値の高いものが多いので
ちゃんと管理したいという思いもあってのことでしょう。
日本のテレビ番組で「お宝鑑定団」というのがありますが
あれの韓国版で「珍品名品」という番組があります。
先月この町で撮影されたのですが
どうも町からめぼしいものが出なかったそうで、
結局この家から食品関係の朝鮮時代に書かれた古文書が出品されて
それがソウルのスタジオで鑑定されることになりました。
たしか先週録画が終わったといってましたね。
私が訪問するたびに人夫さんが5.6人来ていて
勉強が終わるころを見計らって
「あのーまだ終わんないですか?」と誰かが尋ねにくる。
指揮者がいないといろいろ不便だろうから
「じゃ、そろそろ終わりましょうか、」と言ってお開きにする。
酒造りに掛けるあまりの情熱に
「なんか憑いてるんじゃないですか?」と言うと
「自分でもそう思う」とのお答えが返ってきました。
まったくユニークな方ですが、
なぜかこんな方が私の周囲にはちょこちょこいるんですよ。
また紹介させていただきます。