恵実子の書評

二人で紡いだ物語

백강 문정사랑 2010. 12. 21. 11:40

  

 

 

二人で紡いだ物語」米沢富美子  出窓社


 夫婦愛の物語なのですが
 著者の米沢さんのスケールが大きすぎて
 米沢さんご自身のキャリアストーリーだけでも
 お腹がいっぱいになりそうです。

 彼女は世界的な物理学者。
 日本物理学界会長で慶応大学理学部教授。

 
  京大の修士課程中に先輩であった米沢氏と結婚。
 ご主人はそのまま山一證券のエリートサラリーマンになり、
 イギリス留学、ニューヨーク勤務などの経歴を重ねる。

  ご主人のイギリス留学についていきたいが、
  当時会社が許さなかったので
 彼女はイギリスの大学約30校に手紙を出した。
 「奨学金付きで私を受け入れてください。」

 受け入れてくれた学校に彼女もイギリス留学。
 それが彼女のキャリアの基礎になったというあたりの話から物語は始まる。

 物理学で世界トップクラスの業績を残しながら
 三人の子供を育て、立派に教育している。

 仕事場だけでも大変なのに
 家の中でまで争いたくないという米沢さんは
 ご主人に一切家事の協力を求めなかったそうで。
 まるで古いスタイルの韓国主婦。

 米沢さんご本人も
 「私のような生き方はフェミニズムの方たちからみたら
  批判の対象だ」と自嘲する。

 大学教授とエリートサラリーマン夫妻であっても
 三人の子供をバイリンガルに育てるための費用はバカにならない。

 大学の長期休暇中、米沢さんは特許関係書類翻訳などでバイトして
 子供達をアメリカのサマースクールに送る費用を稼いできたそうだ。

 自分の仕事も精一杯、家事子育てもめいいっぱいしてきた
 米沢さんは中年期からカラダを壊して、子宮全摘、乳がん手術で上半身が
 えぐれたようになっているという。
  そのへんの事情はさらっと書かれている。そんなことなんでもないわという感じだ。

 まえ置きが大変長くなりましたが、(やってることがすごく多い人なので)
 それでも、この本は米沢さんの業績や子育てじゃなくて
 「夫が私にとってどれだけ大事な人であったか」
 を語ることにすべての力が注がれている。

 米沢さんの業績は一人でもつくれた可能性もあるが
 彼女の心に織り込まれたご主人との出来事は
 「二人でなければ紡げなかった物語」。

 彼女の学問の業績すらもご主人がいたからできたと米沢さんは言い切る。

   「頑張れ頑張れ」という直接的な励ましではなく、徹頭徹尾
 「キミにできないわけがないだろう」みたいな励ましだったという。

   子供たちが幼い時あまりに大変で、ついつい子供を寝かしつけながら
 自分も眠ってしまったりすると、ご主人から
 「キミの勉強している姿をこのごろ見なくなった。怠けているのじゃないか。」(!!)

 頑張らせようと思って言ってたのでなく
 本当にご主人は奥さんを高く評価していたのだろう。

 ご主人は定年後体を悪くして一人先に逝かれた。
 どれだけご主人が自分の支えになってきたか。
 亡くなってからどれだけ虚無感に襲われたか切々と語られる。
 
 二年たった公的な席での挨拶でも夫の話を始めると、
 つい涙がこぼれてしまう自分に驚くという。

 
 子供さんが小学生の方は同感してくださると思うのですが
 忙しいですよね。母親やってると。
 特にテストの前後。
 期末試験なんか終わると親子で放心したりして。

 でもそのうち子供が大きくなったら勉強手伝ってもやれなくなる。
 大学に入ったら家を出て行くだろうし、
 そのとき、家に残っているのは、はっ!!夫だけ。

 そのとき夫とどれだけ会話ができるか、
 どれだけ楽しく過ごせるか?ということに
 恐らく私達の老後の人生の充実は掛かっています。

 

 現在日本では熟年離婚老年離婚という言葉があるくらい
 年齢を重ねた夫婦の離別が頻繁に起こっています。

 上野千鶴子の「おひとりさまの老後」という本が100万部売れ、
 ひとりの老後をどう過ごすかということが、若いシングル人の関心になっているほどです。

 だからこういう直球勝負の夫婦愛の物語が珍しく
 世の中の人に驚きをもって賞賛されるという背景があるのでしょう。

 結婚を目的として韓国にきた私達としては
 まあ、恐らくこれから10年先、20年先も
 彼が元気でいる限り、私が元気でいる限り
 同じ顔を見ながらご飯を食べたりお茶を飲んだりしていくわけです。

 そうすると、当然パートナーといる時間が楽しくないと
 人生楽しくないわけです。


 米沢さんの本を心の観点から見ていくと
 この方最初から、とてもご主人さんに惚れてしまっているのが分かります。
 好きだ好きだとは書いてないのですが、文章にでてます。

 イギリスについていったのもご主人と離れたくないから。
 海外転勤の多いご主人と同居するように勤めてきたのも
 ご主人と一緒に暮らしたいから。

 そこが一貫しています。
 結局そういう風にしていたら、行った先々で結局自分のキャリアをあげてくれるような
 教授の下で研究することになったようです。

 ご主人を求めて愛を中心に生きていたら
 結局自分の人生もうまく廻っていったという感じです。
 とても素直な女性なんですね、この人。

 この本の一般的な感想としてはずれているかもしれませんが、
  「愛の問題を誤魔化さずに生きていったら
  結局は幸せになった人」の物語であると解釈できるかもしれません。

 現在ご主人のことで頭が痛い人もいるかもしれませんが、
 それだけ他人が自分の人生に根を張って陣取るというのは
 結婚という形態以外の人間関係ではちょっとありえません。

 とくにここは男女の愛がディープな東洋のラテン韓国。
 私達は愛という問題の本拠地に留学しにきてるってところでしょうか?
 専攻科目は「愛」

 成果をもってあの世に行く日までしっかり勉強しましょう。